【完】STRAY CAT



「っ、ふ、」



普通のキスとは違って、もっと深いキス。

それを鞠が憶えてからまだ日が浅いこともあって、舌の動かし方が拙い。……、くそ、煽られる。



別に言うことでもねーだろうけど。

今日も、家には、誰もいない。



「きょう……」



壁やヘッドボードで打たないように支えた頭を、枕に乗せる。

どこか期待した目で見つめられると、止まらなくなる。……こうなるのは、"はじめて"の日以来。



というのも、基本一緒にいるのは学校か鞠の家。

鞠の家では日中に愛さんがいて、夕方からは蒔がいる。ふたりきりになれる時間が、かなり少ない。



もう一度家に遊びに行きたいと言われたから、特に拒む理由もないからと呼んで部屋に入れたけど。

誰もいない家に、彼女とふたりきり。




俺の頭の中の思考がどうなってるかなんて、たぶん言われるまでもなく誰もがわかる。

……だから、すこし離れて座ってたっつーのに。



無防備な姿を見せられて、抱きつかれて。

こんな風に健気にキスに応えられたら、止まれない。



「……俺のこと煽ってんの?」



手を自分の手で押さえるようにして縫い止める。

身動きできない鞠の身体が、キスの最中で時折小さく跳ねる。もう全部、俺を誘ってるようにしか見えない。



手を伸ばして、照明のリモコンを操作する。

部屋を暗くして、ワンピースから覗く足に触れる。



「っ…、」



指でなぞるだけの動きにも、顔を真っ赤にする鞠。

恥ずかしそうな顔をして、瞳に薄らと涙を浮かべて、抑えきれない甘い声を漏らして。



< 193 / 351 >

この作品をシェア

pagetop