【完】STRAY CAT
「べつに治ってないって言ったわけじゃないよ。
もう大丈夫なのか聞かれたから、まだプールに入るのは厳しいかもねって言っておいただけ」
「鞠ちゃん、恭ちゃんのこと心配してたよー。
怪我が治ったのか、あすみんにも連絡とるたびに聞いてたんだって」
「"会って直接聞いたらいいんじゃねえか"ってあすみに言われたのに、
恭に直接聞くほどの勇気はなかったみてえだな~」
鞠が優しいことは、もちろん知ってる。
知ってるからこそ、その優しさに気づきたくなかった。その優しさにまだ好意が残っているんじゃないかと、淡い期待を抱いてしまうから。
「罪な女だねえ、"鞠ちゃん"」
募り募った感情は、消せない。
忘れたくても、忘れられなかったこの数年間。
できることなら、もう二度と出会えなければよかったとさえ思うのに。
……あの日ファミレスで蒔に「きょーちゃん?」と声を掛けられたあのタイミングから、すべてが蘇ってしまった。
「……チッ、」
「恭ちゃん……怒ってる?」
「お前らには別に怒ってねーよ」
プールサイドの端にある2個隣に並んだチェアを、鞠に頼まれたように確保しておく。
頼まれたのは1個だが、もうひとつはついてきたくせに特に水に入る気のないなずな用だ。
「……ただ、やっぱ"あいつ"すげー嫌いだわ」
プール内の見える場所に、"あいつ"と鞠と蒔の姿。
いつの間にか持っていた浮き輪で浮かぶ蒔と、それを囲むようにして笑ってるふたり。
……"ずっと笑ってる"なんて。
どう考えたってお前らしくねーよ、鞠。