【完】STRAY CAT
「なんで一緒にプール入ってくれないの!」
……ほら、今みたいに。
ちょっとしたことで拗ねて、機嫌悪くなって、たまにわがままで、俺のこと困らせて。でも俺が声掛けてやれば、拗ねながらも返事して、話してるうちにいつの間にか笑顔にもどって。
そんな感情豊かで、
馬鹿みたいにかわいい女だろーがよ。
「蒔、無茶言っちゃだめよ。
……怪我してるから入れないって言ったじゃない」
プールチェアで適当にゲームしたりなずなに絡まれ、休むこと約2時間ほど。
しばらく鞠や"あいつ"と遊んでいた蒔が、ぱたぱた俺のところへ駆けてきて、「一緒にプールで遊ぼう」と言い出した。
俺は別にそんなにプールに入りたいわけじゃねーし。
そもそも席を取っておいてくれと頼まれてるし、人混みも好きじゃねーから、どちらかといえば荷物番の方が楽でいい。
でも蒔は、それが気に食わねーらしい。
……話し掛けても来なかったから、俺のことなんてまったく頭にねーのかと思ってたけど。
そういうわけじゃなかったらしく、かれこれ3分ほど駄々を捏ねてる。
「蒔」
さすがに蒔も涙目で、そろそろ可哀想だし。
名前を呼べば、涙が落ちそうなほど潤んだ瞳で俺を見つめる蒔。手招きして呼び寄せて、その頭をぽんぽんと撫でた。
「そろそろ昼飯の時間だろ?
ちゃんと鞠の言うこと聞いて飯食えたら、昼からは俺が一緒に入ってやるよ」
「ほんとっ?」
「ちょっと、恭、」
鞠がさっきから時間を気にしていることはわかってる。ちらちら視線が時計の方を向いてる。
おそらく、蒔に正しい時間に飯を食わせるため。……こういうとこ、昔っから真面目だしな。