【完】STRAY CAT
「まだ怪我が治ってないでしょう?
わたしそんな状態でプールに入らせてしまったら、春野先生に怒られてしまうじゃない」
結局病院にも行かなかったって聞いたわよ、と。
眉間を寄せる鞠のその怒ったような顔まで可愛く思えてしまうんだから、どうにかしてほしい。
つーか、あの人また鞠に絡んでんのかよ。
「お前がこいつらに色々聞いたのとか、勝手に思い込んでんのとか、みちるさんに聞いたのとか。
……何を信じるのかは自由だけど、完治してねーだけでプールぐらいどうってことねーレベルだよ」
「……治ってないならだめじゃない」
「じゃあ直接見て確かめろよ」
蒔の目元を軽く手で覆って、鞠にTシャツの裾を握らせる。
蒔は完全にされるがままでじっとしてるし、鞠もちらりと俺の服をめくって、跡になっているだけで特に支障がないことを確認していただけなのに。
「なーんか、
やっぱ"元恋人"ってヤラシイんだよねえ」
暖が余計なことを言ったせいで、鞠が慌てたように、ぱっと手を離してしまった。
それにつられるようにして、俺も蒔の目元を覆っていた手を離す。
「元恋人っていうか……
このふたりに、なんか、なんとも言えない空気感あるよね。完全にふたりの世界のときあるし」
「そっ、んなことないわよ。
ほら蒔、お昼ごはん食べようっ。すぐ近くに売店あったし、一緒になんか買いに行こうっ」
慌てて蒔の手を取り、この場所を去ろうとする鞠。
あまりにも慌てているせいで財布を忘れていることに気づかず、足早に歩いていくのを確認してから。
「……、
お前らの飲み物くれーなら買ってきてやるよ」
立ち上がって財布とスマホだけ持つと、適当にリクエストが飛んでくる。
それに返事して、鞠と蒔を追うように売店へと向かった。……もちろん、しっかりニヤニヤされながら。