【完】STRAY CAT
「……、見当たんねーな」
鞠が早足に行ってしまったのと、昼間際で売店付近に人が多いせいで、姉妹をすっかり見失ってしまった。
歩いてきた方向は確実に一緒のはずだが、見当たらない。
どこかお手洗いでも寄り道してんのか?と、売店に一番近いお手洗いへと、足を向けようとした時。
不意に「お兄さん」と掛けられた声で、思わず足を止めて振り返った。
……あー、しくったな。
「おひとりですか?」
どちらかと言えば可愛げのある茶髪の女と、美人な黒髪の女のふたり組。
自分で言うのもなんだが、こうやって声を掛けられることはあまり珍しくない方で。
これが逆ナンであることに、すぐさまピンとくる。
そしてこのふたり組が、基本的に断られることなんてないんだろーな、とも、思う。
「いや、ツレいるんで」
だからこそ、ひどくめんどくさい。
そもそもふたりで人数的に不利な上に、断ってもあっさり引いてくれるような相手じゃなさそうだ。……まあ、そうでもなきゃ、そんなビキニ姿で勝率の低い逆ナンなんてしねーだろうけどよ。
「ええ~。でも今おひとりですよね?
お連れの方って、お友達だったりします?」
案の定食い下がらない女たち。
いっそ「カノジョがいる」とでも言ってしまうかと、ふつふつ考えていれば。
「恭、待っててって言ったのに」
するりと絡んでくる腕。
耳馴染みのあるその声はすこし拗ねたようで、さらりと黒髪を風に遊ばせながら、にこりと笑う。
「鞠、」