【完】STRAY CAT
優雅で、美麗すぎるその振る舞い。
逆ナンしてくるような相手が、勝てる女じゃない。
「彼に何か、御用ですか?」
逆ナンした男のカノジョが、圧倒的美人だなんて、しかもその場にいるなんて、思ってもみなかったんだろう。
血の気が引いたように「や、なんでも」と誤魔化した女たちは、慌ててこの場を去っていった。
「……ごめん、出しゃばったことして」
すっかり姿が見えなくなってから、鞠がゆっくり絡めた腕をほどく。
さっきまであんなに自信満々な彼女の姿をしていたのに、今はとても申し訳なさそうだった。
「いや、」
別にほどかなくてもいいのに、と言いかけた言葉を呑み込む。
それから「さんきゅ」とだけ伝えて、頭を撫でそうになった手も早々に引っ込めた。
「……蒔は? お前と一緒だっただろ」
「あ、うん。売店の前で財布を忘れたことに気づいて引き返したら、みんなが"恭が財布持ってわたしのこと探しに行った"って言うから。
蒔いると探すの大変だし、紘夢に任せて探しに来たの」
誰も、鞠がひとりで動くことを止めなかったのか。
……いや、むしろ、それが普通の感覚か。
誰かに声掛けられたり、何かあったらどうすんだよって思うのは俺だけで。
俺だけが、ただ、鞠との距離感を間違えてる。
ただの友達なら、「気をつけろよ」って言うだけでも、十分すぎるくらい心配してると思う。
一緒に行った方が、なんて思うのは、俺が鞠を特別視し過ぎてるからだ。
「んじゃあ、さっさと飯買いに行こーぜ」
適当になんか買って帰ったら、あいつらも食うだろうし。
言うが早いか歩き出す俺の後ろを、鞠がちょこちょこ着いてくる。スピードを少し緩めてやれば、自然に鞠が隣に並んだ。