【完】STRAY CAT
「ありがとう、あすみくん」
連絡しようと思えば、いつだって出来た。
一度は完全に削除してしまった恭の連絡先。……でも、わたしは、当時お母さんのスマホを使ってやり取りしていた彼の携帯番号を、ちゃんと覚えてた。
今でも。……ひとつも間違えることなく。
どうやら番号は、あの頃からずっと変わってないみたいだ。
「……悩んでることってのは。
横から見れば、案外単純だったりするんだよ」
「そうねえ」
プールの中から、蒔が手を振っているのが見える。
ひらひら振り返すと、彼女は嬉しそうに恭と笑っていた。……あれ。蒔ってあんな子どもっぽかったっけ?
確かにまだ幼いし、わたしに甘えることも多いけど。
……あんな風に、子どもみたいにはしゃいだり、笑ったりしてたっけ?
「鞠」
「紘夢……おかえりなさい」
「ちょっといい?」
そのあたりの散歩を済ませて帰ってきた紘夢が、わたしを呼ぶ。
あすみくんにちらりと視線を向けたら「もし何かあったら連絡する」と言ってくれたから、蒔をみんなに任せることにして、椅子を立った。
「……どうかしたの?」
特に何も言わずについて行って、声を掛けたのは歩きはじめてすこし経ってから。
紘夢は、不意に、真剣な顔でわたしを振り返った。
その表情があまりにも真剣で。
どきりとするわたしに、紘夢が口を開く。