【完】STRAY CAT



「あのさ」



「……うん」



「……俺と別れてくれる?」



ぴくり。肩が揺れる。

簡単に何か返すことは出来なくて、頬の筋肉が引き攣ったのを感じる。それから、「どうして、」とようやく出た声は、理由もわからず震えていた。



「すごく、鞠のこと好きだって思う。

だから別れる気も譲る気もなかったけど、」



「うん、」



自分の気持ちは封じ込めて、この人となら一緒にいられると思った。

どうせ来てしまう別れに悲しむなら、わたしのことを大事だと言ってくれる人と、一緒にいたかった。




「様子、ずっと見てたけど。

……鞠があいつのこと好きなの、見てたらわかるし」



「………」



「あいつも、鞠のこと好きなんだろうなって思ってたら、なんか、俺すげえ邪魔じゃんと思って。

……蒔もさ、俺といる時より断然楽しそうに笑ってんの」



ああ、そっか。さっきの違和感はそれか。

普段も蒔はたくさん笑ってくれるけど、あれは"わたしを心配させないように"笑ってくれていて。



ついさっきの蒔は、本当に楽しそうに笑ってた。

蒔が何もわがままを言わなくなったり、なんでも我慢するより前、お母さんがいた頃と同じように。



「どうせ別れてしまうとしても、さ。

今はあいつと過ごしたいんだろうなって、思うから。……俺と別れて、ちゃんと向き合ってやれよ」



恭に別れを切り出した時、覚悟を決めた。

……でも本当は。ずっと、一緒にいたかった。



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