【完】STRAY CAT



「わたしもひさしぶりにずっと外にいて疲れちゃったから。

……早いけど、今日はもう寝るわ」



『俺もそろそろ家帰るわ』



「うん。気をつけて」



ありがとうと電話を切ると、リビングに置きっぱなしになっていた手帳を自室に持って帰ってきて、中身を開く。

残り少ない夏休みの中で『紘夢の両親と会う』という予定があることを思い出し、それを修正テープで消した。



もう、顔を合わせる理由もなくなった。

元々この日は、蒔が友達の家に泊まりに行くと約束をしている日で。



その日なら昼以降、蒔も出掛けていないし。

この日でもいい?と追加した恭の連絡先にメッセージを送ったら、すぐに「OK」の文字が書かれたスタンプが送られてきた。



……これ、当時お母さんの名前でやり取りしてた時にも、使ってたスタンプだ。

モチーフがクマだから、顔に似合わず可愛いスタンプを使ってるなと思った記憶がある。




「……好き、」



聞こえないとわかっていて、画面に向かってそっとつぶやく。

あの頃から、何も変わらない。恭の気持ちも、わたしの気持ちも。……愛おしいくらいに、何も。



『連絡ありがとな。

なんかあったらいつでも連絡しろよ』



追加で送られてくる恭のメッセージ。

やっぱり優しくて、初期設定のままのアイコンから送られてくるメッセージがとても嬉しかった。



蒔がその日は、ともだちの家に泊まりに行くことも伝えて。

寝ると言っていたのに、その後もやり取りが続く。



バイクが先日の事件で壊れてしまったこともあって。

たまり場までは徒歩で行き来しているらしく、返信が途切れずに送られてくるから、ついつい「おやすみなさい」を言い難くて。



恭が家に着いて、「風呂行ってくる」とメッセージをくれたところで。

ようやくわたしも寝ることを伝えて、「おやすみなさい」と送ることができた。



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