【完】STRAY CAT
わざとらしく耳をふさいで言うわたしに、彼は親の仇でも見るような目を向けてくる。
そんなに嫌ならわたしを強引に追い出してしまえばいいのに、それをしない彼は優しい。
特に旧音楽室は、内側から鍵だってかけられる。
それなのに鍵をかけないからわたしは入り放題だし、屋上にだってこうやって毎回来る。
サボる場所だってほかにあるのに、ずっとここにいてくれる。
嫌な顔をしつつも、いっしょにお昼を食べてくれる。
「ねえ恭、これあげる。
いつもパンしか食べてないでしょ?」
「……それカボチャだろ?
お前なんで自分で作って食う弁当に、自分の嫌いな食材わざわざ入れてんだよ」
「あれ?」
ずいっと差し出したお弁当箱。
食べてもらおうと、ほかのおかずにささっていたプラスチックのピックを抜き取ってカボチャにさす。どうでもいいけどピックは毎回動物の絵柄付きで、今日は赤いライオンのピックだ。
「まるでわたしが自分でお弁当を作ってるのを当たり前に知ってるような発言。
しかもどうしてわたしがカボチャ嫌いだって知ってるの?ねえねえ、前に話したの覚えてたの?」
「………」
「覚えてたんでしょー?
そっけないフリしていつも聞いてくれてるもんね。知ってるよわたし。だからね、わたしはカボチャが嫌いだからそれを言い訳にして恭に食べてもらおうと思って入れてきたの」
はじめから恭の分だよって笑ったら、恭は本当に面倒そうな顔をする。
だけど何を言ったって無駄なのを知っているからなのか、何も言わずにカボチャを食べてくれた。
前に「恭の分のお昼作ってもいい?」って聞いたら、わたしの負担になるからって断られた。
自分の分から差し出せば、「お前のが減るだろ」って断られる。
だからこうやって言い訳しないと、恭は食べてくれない。
わたしと恭の関係はただの同級生で、そんなものだ。
「……お前さ」