【完】STRAY CAT



何があったのか、知りたくないわけじゃない。

ただ、鞠の姿を確認できたら。無事だってちゃんと分かったら、それでいいのに。



「黒田。……誰も入れないでくれと、」



「お嬢様の恋人だから、と。

……私共では、もうどうしようもありません」



リビングの扉の先。

そこは息を呑むような光景になっていた。さっきの大きな音もこれだったんだろう。床に散らばった、皿だったであろう無数の陶器とガラスの破片。



ソファに小さく丸くなる鞠は。

怯えたように震えて、ぽろぽろ泣いていた。



「鞠、」



ついさっきまで、楽しそうに笑ってたのに。




「鞠ちゃん……」



さっきのは、この人を拒絶する声だったんだろう。

ソファからすこし距離を取ったところで困った表情を浮かべていたのは、家のことに深く関わっていない俺でもわかる相手。橘花を代表する、社長。



「……黒田が入れたなら仕方がないな。

かれこれ1時間くらいご覧の有様で、私たちもこれ以上近づけないんだ」



涙を落とす瞳が、何もうつしてない。

景色も、色も。……俺のことも、まるで見てない。



「……鞠」



「っ、や、ちかづかないで、」



距離を詰めようとすると、途端に声を上げて拒絶する。

無理やり詰めて抱きしめることだってできるけど、今そうするべきじゃないことは俺にだってわかる。



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