【完】STRAY CAT
「……鞠」
彼女が誘拐されたのに"知らない"じゃ済まされない。
知らなかった、じゃ、済まねえんだよ、マジで。
「……きょう」
ソファの上の、小さくなった鞠が。
聞こえるか聞こえないか程度の声で、俺を呼んだ。
「……どした?」
「こっち、きて」
瞳に、ようやく、色がもどる。
目が合って、すぐにソファの上の鞠を抱き締めれば、彼女はまたぽろぽろと涙を流し始めた。
「……ごめん。ごめんな」
守ってやりたいと思ってたのは昔から変わらない。
でも実際、微塵も助けてやれなかった。助けるどころか、後になって知って、こんな事しかしてやれなくて。
「っこわかった、」
「ああ、」
「いやなのに、きもちわるいのに、触られて、」
「……思い出さなくていい」
話せるようにはなったから、少し落ち着いたらしい。
宥めるように背中をさすってやると、鞠がぎゅっとしがみついてくる。そのうち言葉は消えて、子どもみたいに泣きじゃくる鞠は、ようやく安心したようだった。