【完】STRAY CAT



ぐす、と今まで鼻を啜っていたのに。

恐怖と疲れで糸が切れたのか、泣きじゃくったあと、鞠はそのまま眠ってしまった。頭を撫でて、寄りかかったままの鞠をすこし身体から離す。



「……鞠の傍にいてもらえるかな」



離した身体をそっと抱きかかえれば、鞠の父親からそう言われた。

言われなくても、そばにいるつもりだったけど。



「申し訳ないが、急遽会議を投げ出して来てしまってね。

……ここのことは黒田に任せるから、何かあったら彼を通して伝えてくれ」



「社長、車のご用意を、」



「構わない。タクシーで戻るよ。

……私の代わりに、鞠といてやってくれ」



こんな時にも仕事に戻らなければいけない。

それでも、会議を投げ出してくるくらいには、娘のことを大切に思っているように見える。……鞠がこれを、どう受け取っているかは分からないが。




「君たちがどうするかは任せるよ。

……恭くん。鞠のこと、よろしく頼んだよ」



「、」



そう言って足早に、彼は部屋を出ていく。

……俺、あの人に、名乗ってねーんだけど。



「……私が、駆け付けた時。

お嬢様はずっと貴方の名前を呼ばれてました」



目が覚めた時も、と。

それを聞いて、余計に息苦しくなる。



堕ちていくような恐怖の中で。

鞠はずっと、俺に助けを求めてくれていたのに。



腕の中の彼女ひとり、ロクに守れない。

鞠を寝かせるため彼女の自室へ向かう寸前、なずなに「恭は悪くないよ」と言われたけど。



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