【完】STRAY CAT
「……ごめんな」
眠りが深いようで、ベッドに寝かせた鞠がすぐに起きる気配はない。
そっと、頬に残る涙の痕を指でなぞる。
いま落ち着いていても、明日目が覚めた時にまた落ち着いているとは限らない。
ふとした時に思い出すかもしれないし、こんなに取り乱している鞠が思い出した時に平常でいられるとも思わない。
「、」
どれくらい、その寝顔を見つめていたのか。
コンコン、と小さくノックの音がした。
「俺らは鍵開けてくれたあいつに報告だけして、一旦帰るよ。
……黒田さんはリビングの割れた皿とかグラスの片付けしてくれてる。今日はリビングにいてくれるって」
近づいて扉を開けると、なずなが鞠を起こさないように小さな声で告げる。
「ちなみに初瀬はもう警察に引き渡されてるって」と付け足された言葉は、俺を宥めてるようだった。
「……死ぬほど憎いけど。
別に俺は直接手出したりはしねーよ」
「うん。でも気になるだろうから。
……恭は、鞠ちゃんのお父さんに言われた通り、そばにいてあげて。藍華に顔出せなくてもいいから」
「……ああ」
「それじゃあ。……何かあったらいつでも連絡して。
俺かあすみなら、24時間いつでも出るから」
おやすみ、となずなたちは帰っていく。
リビングからは、黒田さんがあと片付けをしている音が薄らと聞こえてくる。
鞠のベッドそばに、腰掛けて。
投げ出された手に、そっと指を絡める。
鞠がこれ以上、離れてしまわないように。