【完】STRAY CAT
「……よかった」
そっと鞠の頭を撫でる。
すり寄ってくる姿は猫みたいで、目を細めるところが余計に似てる。少しの間そうしていたかと思うと、鞠が顔を上げた。
「……恭」
左手を、彼女の頬に添えて。
すこし持ち上げるようにして、誘われるようにくちづける。別に何かを意図したわけじゃなかったのに、求め合うようなキスは深みを増して。
鞠の部屋に、決して朝にそぐわないような湿り気のある吐息。
すくうように髪に指を通して、後頭部を引き寄せれば、鞠はぎゅっと俺の服を握った。
「……リビングに、黒田さんいるって」
ふたりきりなら、この空気感のまま触れたってよかった。
だけどそういうわけにはいかないからと一旦制止されたのが気に入らなかったのか、すこし不機嫌そうに俺を見つめる鞠。
「だめなの?」
「さすがにな」
「……声我慢してもだめ?」
妙に積極的だから、ドキッとさせられる。
それでも「だめ」と言ったら、拗ねたまま俺の胸に顔をうずめてしまった。
「……黒田さんに起きたこと伝えてくる。
今日は一緒にいてやるし、顔洗ってこいよ」
「……一緒にいてくれるの?」
「いる。……心配だしな」