【完】STRAY CAT



それが嬉しかったようで、大人しくベッドからおりる鞠。

部屋を出て彼女が洗面所に入っていくのを見届けてからリビングに足を踏み入れれば、「おはようございます」とすぐに挨拶がとんできた。



「おはようございます。

……とりあえず、起きました。今は大丈夫そうです」



「そうですか。

社長から、このマンションの退去命令が出てまして」



「、」



「いくら警察に引き渡したとはいえ。

……このマンションにはもう住まわせられないと」



そりゃそーか。

同じマンションに帰ってくるたびに思い出したら困る。鞠もそんなことは望んでねーだろうし。



納得していたら、突然洗面所から聞こえるガン!という音。

ハッとしてすぐに洗面所に向かえば、鞠が屈み込んで落ちたらしいドライヤーを拾おうとしていた。




「ご、ごめん。ちょっと手滑って」



「……鞠」



明らかに声も身体も震えてる。

屈んだままの鞠の前に屈んで、彼女の手からドライヤーを受け取ると、そのまま洗面台に置く。なのに立ち上がらない様子から見て、思い出してしまったことはすぐにわかった。



「……大丈夫だよ」



震える手を握って、目を合わせる。

そうすればじんわりと涙の溢れる瞳。



「鏡で、自分の姿みたら……思い出しちゃった」



たまに意地っ張りだけど、鞠はか弱い女の子だ。

昨日受けたばかりの生傷を、そう簡単に忘れることも癒すこともできない。むしろこれだけ平常心でいられるのは、だいぶ我慢してんじゃねーのかとさえ思う。



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