【完】STRAY CAT
そんな生傷を抉るようなこと、しなくていい。
「覚えてるうちに話さなきゃ」と大丈夫なように笑ってみせるけど、そんなわけない。昨日あんなにヒステリックを起こすくらいパニックだったのに。
「その代わり……恭も一緒なら。
何かあっても、絶対に守ってくれるだろうし」
俺は何もしてやれてない。
守ることも助けることもできなかったのに。それでも、俺のことを絶対的に信頼してくれているらしい。
「……ねえ、蒔のことお願いしていい?」
「、お嬢様」
「ひとりで何とかしなきゃ、って、思ってたけど。
……今回の件で、わたしひとりじゃ蒔を守るのは無理だって、思っちゃったのよ」
妹に、父親がいるということは話したくなかった鞠。
それを覆してまで、蒔のことを守りたいと言うくらいには、鞠にとって蒔が全てなんだろう。
「……巻き込まれたのが蒔じゃなくて、ほんとによかった」
「鞠、」
「もう平気よ。……蒔の前で泣いてられないもの」
しっかりとそう言い切る鞠は、確かにいつも通りの雰囲気を纏っていて。
起きたときの、儚くて崩れ落ちてしまいそうな感じはしない。姉のプライドが、あまりにも強すぎる。
「さて、と。ご飯にしましょう。
食材は冷蔵庫にあるし。ひとつずつ解決しなきゃ」
傷を癒すのは、ゆっくりで構わないのに。
鞠にはそんな気、毛頭ないらしい。
黒田さんも一緒に食べよ、と。
顔を洗った鞠は、何でもなかったようにリビングへ向かう。あまりにも強い鞠の姿に、思わず黒田さんと顔を見合わせてしまったのは言うまでもない。