【完】STRAY CAT
鞠が朝食に作ってくれたのはオムレツと焼いたベーコン、スープで。
パンに添えて出してくれるまでの様子を見守っていたけど、料理する間は楽しそうにしていたから、特に何も口出ししなかった。
黒田さんは「一度社長に報告も兼ねて着替えてきます」と、一旦帰ってしまって。
部屋にはふたりきり。上司に飯を作らせるわけにはいきませんから、と言っていたから、食事を断る口実でもあるんだろう。
その間に、俺はあすみたちに「起きてからはいつも通りにしてる」と連絡を入れる。
気を遣ってくれていたようで、気になるだろうに俺が連絡するまでは何もメッセージは来ていなかった。
「恭、食べよう?」
「ん。サンキュ」
スマホを置いて、鞠と向かい合って座る。
いただきますの後に美味しそうに食べ始める鞠を見ていたら、気持ちも少しは軽くなった。
まだ気に掛かることは山ほどある。
……それでも、今はただ笑っていてほしい。
「鞠ちゃん、おはよっ」
「あら、おはよう。みんなで来てくれたの?」
「そうだよー。心配してたもん」
朝食を終えて、すこし経ったあと。
リビングのソファで寄りかかってくる鞠の頭を撫でて、何を言うでもなくそのまま過ごしていたら。インターフォンが鳴って、こいつらが来た。
「ありがとう。恭から聞いたの?」
「昨日お前と連絡取れなくなったことに心配して、こいつらも来てくれたんだよ。
……帰ってきてからパニック状態だったから、その時の記憶がちょっと抜け落ちてるみたいでな」
俺がいつ来たかも覚えていなかったから、当然こいつらと会ったことも忘れてるんだろう。
補足してやれば、「そっかそっかぁ」とチカがほのぼのした声でつぶやくから、空気も重くならずに済んだ。