【完】STRAY CAT
「君、愛ちゃんの娘だよね?」
どうして。……どうして、お母さんを知ってるの?
もしかしてどこかで会ったことがある?本当は紘夢ともあったことがあった?なんて。
頭の中で、ぐるぐる考える。
考えてもわからなくて、彼を見るわたしは、縋るみたいだったんだろう。ニコニコして、初瀬さんは教えてくれた。
「私はね、愛ちゃんの店の常連客だったんだ」
お客、さん。
「雰囲気がよく似てるから分かるよ」と彼は笑ってるけど、この人の言いたいことが、全くわからない。
「このスマホも、愛ちゃんのものでしょ?
何回か見かけたことがあるから知ってるよ。……そのまま使ってるなんて、随分と母親思いなんだね」
不意に、恭との別れ際、ママさんから連絡が入っていたことを思い出す。
……店の営業が始まってるからなんて思わずに、あのまま、もし、電話を掛けていたら。
「わたしは、愛ちゃんに何度もアピールした。
街の小さな店に、あんな綺麗な子はなかなかいない。……でも愛ちゃんは何をしても振り向いてはくれなかった」
ああ、この人は。
……わたしのお母さんのことが、好きだったのか。
「でも、初瀬さん……結婚されてますよね」
「結婚? そんなの関係ないよ。
私が綺麗だと認めるのは、世界で一人、愛ちゃんだけだ。……なのに、彼女は、死んでしまった」
嫌な予感がする。
そしてこういう嫌な予感は、大抵当たるものだ。
働きすぎたことによる"過労死"。
……何か変ではないかと、ずっと思っていた。
だって、時間で換算すれば、別にお母さんは特別残業していたわけでもないのに。
むしろ一般的な勤務時間だったのに。……過労死だなんて、おかしいと思ったの。