【完】STRAY CAT
「わたし抱き枕じゃないよ?」
「知ってる」
「し、ってる、って……」
わたしが言いたいのは、そういうことじゃないのに。
強く強く抱きしめられて、鼓動がうるさい。
「ねえ、恭……」
わたしだって、恭を好きだと自覚したときは、何かの間違いじゃないかと思った。
こうやってふたりで会う時間を重ねているせいで、彼をすきだと錯覚を起こしているだけかもしれない。そう思った。
だけど、それでもいい。
だって今、こんなにもしあわせだから。
「すきだよ」
「……それも知ってる」
「うん。言いたくなっただけ」
恭の腕の中で身をよじって、身体の向きを変える。
恭のことだから大人しくしろとでも言いそうなのに、何も言わずにわたしのことを見つめていただけだった。
「……うっかり寝て授業遅れんなよ」
恭の背中に腕を回して、ぎゅっと密着する。
わたしの背中にも、恭の腕が回されていた。
優しい囁きに、こくんとうなずく。
胸元に顔をうずめるようにして目を閉じれば、やっぱり、とってもしあわせだった。