【完】STRAY CAT



わたしが晩ごはんの支度をする間に、恭が何ヶ所かの部屋の掃除機をかけてくれた。

普段は特にやらないらしいけれど、わたしが泊まるなら埃っぽいのはダメだろ、ということらしい。



すっかり恭といることに安心したのか。

そこからは特に思い出したり、何か大きな音に過敏に反応することもなく。



「蒔、ごはん食べた?」



キッチンで支度しながらビデオ電話をお父さんに繋いでもらったら、蒔は『うん!』と笑顔でうなずく。

……行ったことがあるから知ってるけど、相変わらず豪華な家だな。



『食べたよぉ。ハンバーグだった!』



「それならよかった。

お父さんとしばらくふたりで過ごせそう?」



あまりに無理そうだったら、帰ることも検討していたけれど。

電話の向こうで、お父さんに抱っこをねだる蒔が見える。仲良さそうな、親子の画。




「蒔。お父さん仕事中だから。

あんまりわがまま言って無理させちゃだめよ」



『はぁい……』



本当にはじめて会ったのかと思ってしまうくらい、蒔はその場所に馴染んでいて。

聞かなくても、大丈夫なことはわかる。お手伝いさんに「お風呂行こっか」と蒔が連れていかれたタイミングで、お父さんが「鞠」とわたしを呼んだ。



『学校は、どうしたい?

通い続けるというなら、わたしは止めないけれど』



「……ううん、わたしはそのままで平気。

蒔も本当はそのまま通わせたいけど、そこからじゃひとりで通わせられないし、」



『……車で送迎すれば問題ないだろう』



何か問題が?と、お父さんが尋ねてくる。

……そう、か。車で送り迎えしてくれるのか。



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