【完】STRAY CAT
その日から恭はすこしずつ変わった。
自分からも話してくれるようになった。わたしのことを「鞠」って呼んでくれるようになった。
わたしのことを好きでいてくれてるのかな、とは、薄ら思ってたけど。
恭はわたしのことを好きとは言わなかったし、付き合おうって話も出なかった。抱きしめてくれたのだって、最初の1回きりで。
あれは恭の気の迷いだったのかな、なんて。
そんなふうに思っていた、とある日。
今日は雨で、旧音楽室にふたりで籠っていた。
「昨日ね、先生に『花蔵どうだ?』って聞かれたの。
話すようになったけど、授業に出る気配はないです~って言ったら、困った顔してたよ」
「だろーな」
恒例の話題提供。
恭は、興味なさげにぽつりとつぶやく。持ち込んでいる校則違反のスマホはゲーム画面を表示していて、どうやら彼はいま、それにハマっているらしい。
「あとね、昨日クラスの子に告白されたの」
「……、へえ」
「返事保留にしてるんだけど……」
どうしようかな、と言いながら、曇った窓の外を眺める。
ふいにゲームの音が途切れたことに気づいて視線を落としたら、わたしの顔を覗き込む恭と目が合って。
「……お前俺のこと好きだっつってなかった?」
「好きだけど……?」
今日も金髪がキラキラしてる。
綺麗だな、なんて、ぼんやり違うことを考えていたら。恭の手が、わたしの頬に触れた。