【完】STRAY CAT



なんだか鞠の顔色が悪い。

俯く彼女の顔を覗き込んでも返事がなくて、砂を呑んだような気持ちにさせられる。……かと思えば。



「っ、わたしめちゃくちゃ寝起き!

知ってたらもっと早起きしてちゃんとしたのにっ」



小声であたふたし始めるから、焦ってただけかとホッとする。

まだそこそこに早い朝から押しかけてきてんのは向こうだから、別に鞠がちゃんとする必要はねーと思うけど。何なら来ることも知らなかったわけだし。



「っ、はじめましてなのに」



こういうところ、女の子らしいな、と思う。

それで言えば俺は鞠の父親にも認知されている上にそこそこ親しくしてもらってるから、だいぶ気ぃ抜いてっけど。



「鞠ちゃんよね? はじめまして、恭の母です」



そんな鞠の気持ちを置いてけぼりにして。

声を掛けてくる母さん。なんてタイミングの悪い。……いやむしろ、わざと、か?




「っはじめまして。橘花鞠です」



「あら可愛い。ちゃっかり美人捕まえちゃって」



さすがわたしの息子、と笑われるけど。

なんつーこと言ってんだこの人。面食いなのは自分だけにしとけよ。俺は別に鞠が美人だから好きになったわけじゃない。……まあ美人だとは思うしそこも含めて好きだけど。



「鞠がなんでこんな朝から来るんだって怒ってる」



「ちょっ、恭……」



「え?だって最初にいちばんだらしない姿見せておいた方が後々楽じゃない?

そのうちほんとに結婚するならわたしとも今後関わってくれるんだろうし」



違うの?と、さぞ不思議そうに首を傾げる母さん。

……やっぱりわざとか。



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