【完】STRAY CAT
「何ならふたりが同じ部屋で寝てるって聞いたから、部屋まで起こしに行っちゃおうかと思ったんだけど。
……ふたりがもし営んでたら困るじゃない?」
「マジで何言ってんだ」
鞠の顔が真っ赤になる。鞠の父親は複雑そうな顔でこっちを見てるし、蒔は何もわからなくてぽかんとしてる。
……頼むから、蒔は一生そのままでいてくれ。
会話から察して、普段あすみたちにもバレてんだろうし。
同じ部屋で寝泊まりしているのに何もないと思われている、とも、思ってねーけど。
「真っ赤になっちゃった。図星?」
「別に今は起きて下りてきただけだっつの」
基本的にこの人は誰かを揶揄うのが好きで。
俺のこともそうだが、特に鞠のことを揶揄いたくなるんだろう。それはよくわかる。……ただ、俺が咄嗟に言い返したのが悪かったらしい。
「"今は"……ね。
じゃあ営みは朝じゃなくて夜だったか」
「もう黙ってくれ」
これ以上余計なことを言わせると、鞠が耐えられない。
庇うためにそっと背中に隠してやると、繋いだ手を握る力が少し増した。……泣きそうじゃねーか。
「んで、結局何しに来たんだよ」
「仕事。パパのおつかいよ。
かわいい息子と、そのかわいい婚約者のことを見てきてほしいって頼まれちゃったから」
ウチの父親は例の婚約発表の際に来ていたから、鞠も挨拶だけは交していた。
父親同士が長く話していたから、あの時は今みたいにしっかり話す機会はなくて。少し時間も経ったことだから、俺らのことを見てきてくれと頼まれたらしい。
……未だに俺は気になってる。
落ち着いてはいるが社長にしては割と気さくな方で人ウケしやすい父親と、こんなとんでもない母親が、なぜ夫婦なのか。