【完】STRAY CAT
・恭くんとみちるさんと気になるあの人
◆
みちるさんから『いまからメシ来ねー?』と連絡が来たのは、とある金曜日の夕方だった。
普段は鞠が遊びに来ることが多いため、そんな誘いはまず断る。……が、しかし。めずらしく俺は、その日二つ返事でその誘いに乗った。
「よぉ、何気にひさしぶりだな」
「……、は?」
「ん? ああ、」
指定された店に着き、バイクを停める。どうせ未成年で店では酒も飲めねーから、バイクの方が楽でいい。
ちなみにバイクは、婚約した際に「婚約プレゼント」と称して、鞠の父親が新しく買ってくれたものだ。……ぶっちゃけ、めちゃくちゃありがたい。
バイクからキーを抜いて、店に足を踏み入れる。
迎えてくれた店員に、先に来ていることを伝えれば、聞いていたようですぐに個室に通してくれた。
が、問題はそこじゃない。
……みちるさんが、一人じゃなかったことだ。
「なんでここにいるんすか、黒田さん」
普段はぴっしりとキメたスーツ姿だから、ゆったりめの黒いTシャツというラフな私服姿を見て、一瞬誰だかわからなかった。
不意に気づいてその名を口に出せば、彼は「みちるに呼ばれたんです」と言いつつ、先に飲み始めていたグラスの酒を呷る。
……このふたり、知り合いなのかよ。
「んなこと言って。
普段はどれだけ誘っても絶対来てくれねえのに」
「お前は俺が何の仕事をしてるか忘れたのか」
「んー? 橘花家の社長秘書?」
さすがに黒田さんにもプライベートはあるらしい。
堅苦しさを捨てた口調には、どことなくあすみと同じようなものを感じる。かといってそこまで親しい仲では無いし、ひとまずみちるさんの隣の席へと座った。