【完】STRAY CAT



電車をおりて水族館まで歩きながら、恥ずかしさで目も合わせられないわたし。

別に機嫌を損ねているわけじゃないけれど、恭も深くは触れてこないからその状態のまま水族館にたどり着いて。



「高校生おふたりで、3600円ですねー」



まずはチケットカウンターに立ち寄る。

財布を取り出したけれど、恭が先にわたしの分も払ってくれた。チケットを受け取ってからお金を返そうとしたけれど、彼は「別にいーよ」と拒否する。



「俺がどっか行こうぜって約束したしな。

彼女なんだから、わがまま言っていーんだよ」



「……ありがとう」



「ん」



水族館の暗さも借りて、恭とようやく目を合わせる。

当たり前のようにわたしに手を差し出してくれる恭のことが、すごくすごく好きだ。




「きれい……」



水族館って、どうしてこんなに素敵な空間なんだろう。

仄暗さと、ライティングと、音と。すこし小声でみんなが話をするこの感覚が、なんだかとても好きで。



「蒔も連れてきてあげた方がよかったかしら」



あとで写真を見せてあげようと、スマホを取り出す。

お母さんから受け継いだものではなく、つい最近新しく買い換えたそれ。……白いスマホは、家の中のお母さんの写真と一緒に、大切に保存してある。



「そーだな。

……蒔連れてくんのも、良いかもな」



「あら、同意してくれるの?

ふたりでいるのも、わたしはすごく楽しいけど」



写真を撮るために離れた手。

けれど距離は離さないで、恭がすぐそばにいてくれる。写真を撮り終えたら、また手を繋いでくれる。



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