【完】STRAY CAT
「まあ、邪魔はされたくねーけど。
……なんか予行練習はできそうじゃね?」
「予行練習?」
「子どもができたときの」
「………」
「あ、やべーな今の。
さすがにキモいから聞かなかったことに、」
ぶわっと恥ずかしくなってしまったのは、どうしてだろう。
すぐそばに人がいるわけじゃないから誰に聞かれたわけでもないけど、手の甲で頬に触れたら熱い。
慌てて弁解してくる恭に「うん」と頷く。
さっきから何組か水族館に来ている人たちを恭は眺めていたから、さっきの家族連れなんかを見て、きっとそういう風に思ってくれたんだろう。
「いつかそうなったら、わたしも嬉しい」
「鞠、」
「だから蒔連れて、予行練習しようね」
左手の薬指に嵌った婚約指輪。
特別な日にしか嵌めてこないそれは、わたしの指にしっかりと嵌ってる。
周囲を確認して人がいなくなったのを見てから、恭がわたしのくちびるにキスをくれた。
やっぱり、恥ずかしいけど、嬉しい。
「でも、とりあえず今日はふたりきりで、な」
囁かれて、またどきりとする。
さっきまではあんなに恥ずかしかったのに、目が合うと、なんだか触れて欲しいような気分に陥る。それを振り払うように、恭と水族館の中を進んだ。