【完】STRAY CAT
◇
その日すこしだけ、世界は騒がしかった。
そのすこしは、わたしにとって、大きな出来事。
「なっ、西澤……!?」
「おはようございます」
「お、おまえ、その髪……」
校門に立っていた複数の先生たちがわたしを驚愕の瞳で見つめる。
登校中に出くわした同じ制服の生徒も、みんなみんな同じ反応。その理由は、誰に言われずともわたしがいちばんよくわかってるわけで。
「昨日染めました。
……あ、授業に遅れそうなので失礼します」
ふわり、風でディープピンクの髪が揺れる。
視界の端にそれがうつりこむたび、口角が上がった。
「いやいや、待て……!」
ハッと我に返ったように駆け寄ってくる先生。
立ち止まって、「なんですか?」と親切に問いかけるフリをして、彼を油断させる。そして何か言いかけたタイミングで、その場から全力ダッシュ。
「西澤!!」
名前を呼ばれたけど、止まる気などさらさらない。
その勢いのまま校舎を駆け上がり、普段なら教室に向かうところを、別校舎の4階に向かった。
バンッと扉を開けば、恭の姿はまだ無い。
……そうか、当然のようにいると思ってたけど、わたしはいつも恭と昼休みにしか顔を合わせない。
あの遅刻が日課の恭が、この時間に来てるわけないし。
いつ来るかなぁって考えて、頬をゆるませる。
先生は追いかけるのを諦めたようで、わたしの元にはやってこなくて。
定位置に腰をおろすと、持っていたバッグの中から適当に問題集を抜き取って広げた。