【完】STRAY CAT







その日すこしだけ、世界は騒がしかった。

そのすこしは、わたしにとって、大きな出来事。



「なっ、西澤……!?」



「おはようございます」



「お、おまえ、その髪……」



校門に立っていた複数の先生たちがわたしを驚愕の瞳で見つめる。

登校中に出くわした同じ制服の生徒も、みんなみんな同じ反応。その理由は、誰に言われずともわたしがいちばんよくわかってるわけで。



「昨日染めました。

……あ、授業に遅れそうなので失礼します」



ふわり、風でディープピンクの髪が揺れる。

視界の端にそれがうつりこむたび、口角が上がった。




「いやいや、待て……!」



ハッと我に返ったように駆け寄ってくる先生。

立ち止まって、「なんですか?」と親切に問いかけるフリをして、彼を油断させる。そして何か言いかけたタイミングで、その場から全力ダッシュ。



「西澤!!」



名前を呼ばれたけど、止まる気などさらさらない。

その勢いのまま校舎を駆け上がり、普段なら教室に向かうところを、別校舎の4階に向かった。



バンッと扉を開けば、恭の姿はまだ無い。

……そうか、当然のようにいると思ってたけど、わたしはいつも恭と昼休みにしか顔を合わせない。



あの遅刻が日課の恭が、この時間に来てるわけないし。

いつ来るかなぁって考えて、頬をゆるませる。



先生は追いかけるのを諦めたようで、わたしの元にはやってこなくて。

定位置に腰をおろすと、持っていたバッグの中から適当に問題集を抜き取って広げた。



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