【完】STRAY CAT
早朝に帰宅するお母さんが毎日蒔の面倒を見るわけにはいかないから、朝はわたしが蒔を連れて保育園に行ってから、学校に行く。
そして夕方はお迎えの時刻まで恭と一緒に家で過ごしていて、お母さんは家を出るすこし前まで部屋で寝てる。
「ごめんね鞠、お母さんもう行くから。
蒔のお迎えよろしくね。恭くんも、いつもこんな慌ただしい家でごめんね」
そうわたしたちに声を掛けたお母さんから名前を呼ばれて、玄関で恭に見えないようにこそっとお金を渡される。
それを受け取って、「いってらっしゃい」と笑顔で見送った。
文句は言わない。
シングルマザーで子どもふたりを養うのがどんなに大変なのか、わたしにもちゃんと分かってるから。
「つーか、お前はどうすんだよ進路」
「中卒で仕事なんて絶対大変だから、
お母さんはとりあえず進学しなさいって」
「だろーな。
でもお前の場合、内申点が悪いだろ」
その通り。
サボるようになっちゃったし、校則違反もずっと続けてるから、内申点が下がっているのは言うまでもないことで。
「あ、ねえ。藍華の人たちの写真見せて?」
「あー? なんでだよ」
「え、なんとなく。見たくなっただけ」
付き合ってから、恭が藍華っていう暴走族に入ってることを知った。
関東でどうやら有名なチームらしい。その話が広がっているから彼は中学でもみんなから距離を置かれているようで、教師も口うるさく言ったりしない。
わたしと放課後一緒に過ごしたあと藍華のたまり場に行くことも多いみたいで、仲良しなのはよくわかる。
わたしの知ってる恭はいつもひとりでいる人だから、それがなんだか意外で。
お願いすれば、恭は適当にスマホを触る。
それから見せてくれたのは、1枚の集合写真。