【完】STRAY CAT
なら半袖を着ればいいんじゃないの?って話なんだけど。
なんていうか……半袖のシャツって、好きじゃない。
そんなわたしとは違ってすでに半袖のTシャツを着ている蒔が、くいくいとつながった手を引く。
つられるようにして視線を向ければ、やっぱり彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「おねえちゃん。
なつやすみ、プール行きたいなぁ」
「プール……? ともだちと?」
「ううん、おねえちゃんと!
ひろくんもいっしょに行こうよぉ」
なんてことないように、ハセのことも誘う蒔。
きっと小学1年生の女の子にとって、"おねえちゃん"の友だちは、イコール自分のともだちと、同じ感覚なんだろう。
ただ一緒に遊びたいから誘うだけ。
そこに男女どうだこうだなんて面倒な理由が付属してくるのはあくまで大人になっていくからで、歳を重ねれば生きやすくなると思った世界は残酷にも生きづらく息苦しく進んでいく。
「まじで? なら行こっかな。
橘花がいいって言ってくれんなら」
だって、ほら。
蒔は蒔だけど、ハセはわたしを名前で呼ばない。
それはわたしも同じで、ハセはハセだ。
いまさら名前を呼ぶとか、そんなんじゃない。
「……ハセと行ったら目立ちそうで嫌よ。
女の子たちに逆ナンとかされそうだし」
「されても断るって」
「……されない、とは言わないのね」
ハセがモテることも、そういうヤツだってことも知ってる。だからってべつに文句とか言わないけど。
ぽつりとつぶやいた言葉は、すぐそばに見えた小学生集団の声に、掻き消されて溶けた。