【完】STRAY CAT
飾られている写真は古い。
わたしと蒔の小さい頃の写真は残っているのに、それぞれの写真もふたりでうつったものもたくさんあるのに、お母さんの写真は極端に少なかった。
シングルマザーだったから。
いつも写真は撮る側で、記憶をさかのぼったって、一緒に写真を撮ったことを覚えていないほど。
「……ストレスと働き過ぎで、過労死、だって」
誰よりもわたしと蒔のために働いてくれていたのは、お母さんだったのに。
……どうすれば、助けてあげられたんだろう。
午前中は保育園に預けられ、午後は仕事でお母さんが家を出るため、蒔がお母さんと過ごした時間は本当に少なかった。
こうなるってことがわかっていたなら、もっとはやく、一緒にいる時間を増やしてあげればよかった。……ううん。お母さんの体調が良くないことに、誰よりもはやく、わたしが気づかなきゃいけなかった。
「……蒔ね、泣かないの」
ぽつりと落とした声が、静かに和室に反響する。
「泣いたのは……
お母さんにもう会えないって話をした、一回だけ」
「………」
「わがままも言わなくなっちゃった」
どうやって今ここで暮らしているのか、蒔もハセも知らない。
「わたしと蒔のふたり暮らし」。はじめにそう言ったから、ハセは暗黙の了解みたいに、わたしに蒔以外の家族のことを、聞いてこない。
「おねえちゃん。
じぶんのお部屋で、学校の宿題してるね」
「……うん。そうして」
ひょっこり顔をのぞかせた蒔は、さとったようにそう言って部屋に行く。
その行動ですら、わたしに迷惑をかけないようにって、考え込まれたものだった。