【完】STRAY CAT



飾られている写真は古い。

わたしと蒔の小さい頃の写真は残っているのに、それぞれの写真もふたりでうつったものもたくさんあるのに、お母さんの写真は極端に少なかった。



シングルマザーだったから。

いつも写真は撮る側で、記憶をさかのぼったって、一緒に写真を撮ったことを覚えていないほど。



「……ストレスと働き過ぎで、過労死、だって」



誰よりもわたしと蒔のために働いてくれていたのは、お母さんだったのに。

……どうすれば、助けてあげられたんだろう。



午前中は保育園に預けられ、午後は仕事でお母さんが家を出るため、蒔がお母さんと過ごした時間は本当に少なかった。

こうなるってことがわかっていたなら、もっとはやく、一緒にいる時間を増やしてあげればよかった。……ううん。お母さんの体調が良くないことに、誰よりもはやく、わたしが気づかなきゃいけなかった。



「……蒔ね、泣かないの」



ぽつりと落とした声が、静かに和室に反響する。




「泣いたのは……

お母さんにもう会えないって話をした、一回だけ」



「………」



「わがままも言わなくなっちゃった」



どうやって今ここで暮らしているのか、蒔もハセも知らない。

「わたしと蒔のふたり暮らし」。はじめにそう言ったから、ハセは暗黙の了解みたいに、わたしに蒔以外の家族のことを、聞いてこない。



「おねえちゃん。

じぶんのお部屋で、学校の宿題してるね」



「……うん。そうして」



ひょっこり顔をのぞかせた蒔は、さとったようにそう言って部屋に行く。

その行動ですら、わたしに迷惑をかけないようにって、考え込まれたものだった。



< 69 / 351 >

この作品をシェア

pagetop