【完】STRAY CAT
学校にたどり着けば、至るところから「ハセおはよー」の声がかかる。
ときおり親しげに「ヒロ」と呼ぶのは、彼が過去に相手にした、"一回限りの女"とかだろう。
「鞠ぃ……! おはよ~!!」
わたしに声を掛けてくるのは、彼女だけ。
糸井 果歩。
甘いハニーブラウンの髪色は、この偏差値70超えの有名進学校、私立藤咲第二高等学校で、とにかく目立つ。
1年の頃から仲良しの女の子で、2年になった今年もわたしとハセと同じクラスだ。
「おはよ。今日も相変わらず元気ね」
「ハセくんもおはよー。
ねえ聞いてよ鞠ぃ。こないだの有名一流大学に通ってるって言ってた大学生、エリートだと思ってたらホストのバイトしてたんだけどぉ」
おはようとハセに声をかけておきながら、返事を待つこともなくわたしに話し掛けてくる果歩。
しかも内容は男のことで、興味のないわたしはただ「へえ」と相槌を打つだけ。
「普通のエリートで顔も良いなら、
そもそもはじめから彼女いるでしょ」
「やっぱそうだよねぇぇ」
果歩の拾ってくる話は合コンやら逆ナンやら、おおよそ進学校とは縁のなさそうなものばかり。
それでもちゃんと成績は良いんだから、そういうところは尊敬してたりする。
「いいなぁ、鞠は余裕でー。
ハセくんなら文句とかないじゃんねぇ」
「……文句しかないんだけど」
「なんでよ~!
ハセくんの彼女になりたい女の子なんてこの学校だけでもいっぱいいるんだよ……!?」
……いや、だから興味ないんだって。
そのハセに好かれる権利を、ぜひとも違う女の子に譲らせて欲しい。っていうかもういっそ、誰かハセのこと略奪とかしてくれないかな。