【完】STRAY CAT
旧音楽室に、ひとりだけ。
一応学校に来てはみたものの、昨晩眠れなかったせいかいつの間にか寝落ちてしまい、目が覚めた時にはすぐそばに人の気配があった。
「……鞠?」
呼んだのは無意識だった。
でも返ってきた「なに?」という声はいつもの穏やかな鞠のそれで、ようやくまぶたを持ち上げる。
「……、今日も来ねーのかと思ってた」
「昨日ね、教室でご飯食べたの。
でもひとりだったから、やっぱりさみしくなっちゃって、ここに帰ってきちゃった……」
どこか不安そうに俺を見る瞳。
どうしてそんな顔をしているのかは、言われなくてもわかった。俺があんなことを言ったからで。
そんな顔をさせている自分が不甲斐なくて、ぎゅっと鞠を抱きしめる。
やっぱり細くて華奢な肩。強引にすれば脆く壊れてしまいそうな鞠が俺を「好き」だと言ってくれるのなら、もうそれでいい気がした。
「……あんなこと言ったから、
マジでもう来ねーのかとおもった」
「え……」
いつだって鞠はまっすぐだ。
そういえば俺の話を保健医に一方的に話していた時も、その言葉に嘘はなかった。
いつもいつも、嘘偽りのない綺麗な言葉だけを俺に向けてくれる。
……違う。鞠がまっすぐだから、嘘をつかないから、その言葉はすべて痛いくらいに綺麗に聞こえた。
「……くるよ。
恭に会えないの、さみしいんだもん」
「………」
「昨日はそう言われたのがショックで……
来なかったけど、やっぱり一緒に、」