【完】STRAY CAT
いたいの、と。
そう続くはずだった言葉をくちびるで遮った。
もう制御なんか、利くわけない。
いつもみたいに優しいキスじゃなくて、ただ強引に、想いをぶつけるようにくちづける。
「……好きだ」
囁いた言葉に、嬉しそうに笑う鞠。
そんな顔を見せてくれるなら、もっとはやく言ってやればよかった。
「うん……わたしも好きだよ」
鞠に想いが繋がっていることを、そうやって実感させて。
それでも「付き合いたい」って言う鞠に、俺は卑怯な条件を出した。
優等生の鞠には出来ないだろうと思ったから。
いつかは知られるだろう自分を取り巻く環境。それを話すこともできずに、ただ、想い合っていることだけ、確かめていたかった。
……まあ結果として、鞠はそれを上回ってきた。
俺のために、優等生というレッテルを、捨ててまで。
別に付き合いたくなかったとかそういうわけではなくて。
そこに事情があったものの、それをちゃんと説明してやらなかった自分にため息をついた。
でも、堂々と校則違反のピンクに染められた髪を見たら、もう文句は言えなくて。
約束した通り、俺は鞠と付き合った。
付き合ったら付き合ったで吹っ切れたこともある。
だから最終的にはよかったと俺も思うけど。……ただひとつ後悔していることは、世間に対する鞠の価値を、俺のせいで下げてしまったこと。
鞠はそれでも笑ってくれてた。
シングルマザーの母親と、小さな妹のために努力する鞠を見ていたら、俺はどこまでも愛情を注いでやれた。
この先ずっと、本気で一緒にいたいと思ってた。
だからあの日。
付き合って2年の記念日を祝ったわずか数ヶ月後。はじめて聞いた鞠の本気のわがままを、俺は呑んでやるしかなかった。