【完】STRAY CAT
「こんな時間に呼び出して、ごめんなさい……」
「俺は別にいーけど、お前風邪引くぞ」
22時。鞠が母親と妹と住むアパートの下に呼び出された俺は、藍華のたまり場からそこへ向かった。
まだ寒いんだからと身体を抱きしめてやれば、胸に顔をうずめてくる。
だけどいつものように腕を回してこない鞠に、
なんとなく嫌な予感がした。
「鞠?」
春休みに入って、鞠と会う機会は何度かあった。
お互い志望していた高校にも無事に合格し、「おめでとう」を言い合って祝ったのもわずか数日前のこと。
なのに、鞠の様子がおかしい。
……この間はちゃんと、笑っていたのに。
「恭……」
「ん?」
「わたしと……別れて、ほしいの」
なんて言われたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
春といえど、まだ寒い夜。冷えて悴んだ鞠の指先が俺のコートを握るまで、言葉のひとつも出せなかった。
「別れてほしいって……なんで、だよ」
これでも鞠のことは最大限に大事にしてきたつもりで、傷つけた時はすぐに俺が謝っていた。
だから大きな喧嘩もせずに仲良く2年やってきたし、鞠のことは間違いなく俺が一番よく知ってる。
だけど鞠はふるふると首を横に振るだけ。
明確な理由は、教えてくれそうになかった。