【完】STRAY CAT



自分の中に幾重にも募った気持ちを。

もっと伝えてやればよかった、ってこと。



「おかえり恭ちゃーん。遅かったねー」



「ファミレスから家まで、遠かったの?」



鞠が前に住んでいたアパートから、約1駅。

いま住んでいるマンションから、約1駅。



ちょうど間くらいにある藍華のたまり場。

ただ送るにしては少々遅い俺の帰りに、なずなは首をかしげた。



「いや、そんな遠くなかった」



言いながら、冷蔵庫を開ける。

藍華は先代が後輩のために色々と供給してくれるおかげで、設備が良い。建物も、たまり場と言うのは似合わないくらい、綺麗なプレハブだった。




「どっか寄り道してたの? 恭ちゃん」



青柳 薙景(あおやぎ ちかげ)

本名だと呼びづらいから、呼ぶときはいつもチカ。チカの水色の髪が、照明で淡く透ける。



「……家上がったんだよ」



「おいおいどういうこと〜?

ちょ〜っと俺にその話詳しく聞かせろよ〜」



……たった今までいなかったのに、急にめんどくせーのが混ざってきやがった。

七五三掛 暖(しめかけ のん)。王子、とまでもてはやされる美形を持つくせに自分は恋愛ごとに一切興味を持たない。



そのくせ、好物は他人の恋愛話。

俺と鞠の関係をやたらと探ろうとしてきたのもそのせいだ。……が、正直めんどくせーし。



「別に何もねーよ」



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