【完】STRAY CAT
第5章 オーバーロード・サマー
◇
「いってきまぁす」
「いってらっしゃい。
心配だから、絶対遅くなっちゃだめよ?あと、挨拶はちゃんとして、行儀よくね」
「うんっ、わかってるよー」
玄関で靴を履く蒔に、いつもの約束事をする。
くるっと振り返った彼女が腕を伸ばしてきたから、すこし屈んでその身体に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。そして、ふふっと笑い合って。
「いってらっしゃい」
お菓子と遊び道具の入ったバッグを持たせ、手を振って彼女を見送る。
一緒に外に出ることが多いから見送るのってなんだか慣れなくて、落ち着かない。
週末。
ともだちの家に行く蒔と、ハセと出かけるわたし。
ひとりになった家の中でバッグに荷物を詰めて、忘れ物がないか確認してから家を出る。
ハセの部屋は6階だから、一瞬考えてエレベーターを使わずに階段でおりた。
ピンポーン、とベルを鳴らす。
数秒して扉から顔を出したハセは、「おはよ」とわたしに微笑んで。
「もう昼だけどね。すぐ出れそう?」
「ん。ちょい待って」
そう言って一度部屋に引っ込み、すぐに外へ出てくる。
「暑いね」と言いながら、ふたりで炎天下に身を投じた。
「髪結んだの?」
暑いから、さすがに手をつなぐようなことはしない。
触れず離れずの距離がなんだかまだ初々しいカップルみたいで、ちょっとだけジリジリと言いようのない感情が湧いた。