【完】STRAY CAT
口調ははっきりしているのに、見つめてくる瞳は仔犬みたいに無垢。
もしかして、わたしがその表情に弱いことを分かっていながらそんな顔をしているんだろうか。だとしたら、相当な確信犯だ。
「別に。……そんなもんでしょ」
わたしだって恭と付き合っていた頃は、それくらいの単純思考だった。
いまほど冷めてもいなかったし、好きになればなるほど、盲目的になっていったのも事実。
だからこそ、思う。
誰かを恭以上に好きになることなんて、もう二度とないんじゃないかって。
「……そう言ってくれる女でよかったよ」
「………」
それを口に出せるほど、素直な女じゃなかったけど。
「休みが明けたら学校のヤツらに、
鞠とデートした、って言いふらさねえとな」
「やめて。ほんとに女子の視線が痛いの」
「よく言うよ。
お前のこと狙ってる男って結構いるんだからな」
高1のとき告白されてたろ、と。
言われて記憶を探る。たしかに告白はされていた。
美人だってチヤホヤされることもあった。
だけど事情があったし、何より恭と別れて間もなかった。だから立て続けにされた告白で冷たく返したら、『鉄壁の女』なんて言われたこともある。
なのにハセがしつこくわたしを口説いていたから、みんなからは完全に鉄壁の女とそれに挑む勇者、的扱いをされていたのも知っている。
その鉄壁もハセのせいで、徐々にひび割れてきてるけど。
「お。さすが巨大ショッピングモール。
ど真ん中で水着とビーチグッズの展開やってんじゃん」