【完】STRAY CAT
大人じゃなくたって、妹を守ってあげられることを証明したかった。
何の不便も不自由もない女の子として、育ててあげたかった。
だけど、今のわたしにはそれを実現できない。
だってわたしはまだ高校生で、詰めて詰めて働いたって、蒔を笑顔にはしてあげられない。
それにそんなの、きっとお母さんと同じ道をたどることになる。
そうなったら、絶対に蒔は悲しむから。
わたしのためにわがままを言えない女の子を、ひとり残していくことなんて絶対にできない。
──本当に、すごく、滑稽な話だ。
大人を頼ることを、これだけ嫌うくせに。
わたしは誰よりも、大人になりたいって思ってる。
「……お前さ。
俺とはじめて、顔合わせたときのこと覚えてる?」
ぽつりと、ハセがそう零す。
……ハセと、はじめて、会ったときのこと。
「覚えてるわよ」
"あの人"にいくつか提示されたマンション。
その場では決めずに実際に足を運んで選んだのは、ほかでもなく蒔が住みやすい環境を作っていくため。
そしてわたしが今のマンションを選んだ理由は、小学校からそう遠くないから。
蒔の安全面が、何よりも最優先。
「引っ越して、数日だったの。
……たしか学校の教科書販売の日じゃなかった?」
「そうそう。
先にエレベーターにお前が乗ってて、マンション出て学校向かったのまでは良かったんだけどな」
「『ストーキングしてるの?』って直接言ったわ」
だってまさか行き先が同じだと思ってなかったし。
ずっと後ろにいるからストーカーされてるのかと思って尋ねたけど、ハセはすごく嫌そうな顔をして「んなわけあるかよ」って返してきた。