【完】STRAY CAT



どきりとした。

実際にその翌日、わたしは恭とファミレスで会った。



しかも家に呼んだ。

ハセですら家に上がったことなんてないのに、別れた男をたやすく家に上げた。



自分から、その腕に縋るように泣いた。

ダークフローラルな香水も、優しい声も、抱きしめるぬくもりも全部、あのときのままで。



「……だから今、すげえ、うれしい」



今度は別の男に、愛のない結婚が嫌だからと縋ってる。

恭との間に起きた出来事はすべて、内側に潜めて。



「……はやく水着選んで帰ろ、ハセ」



恭と別れたのは、婚約を理由に新たな人生を踏み出すことを決めたから。

そのときになって別れるよりも、いつか別れなきゃいけないことを告げるよりも、あの場所で別れを切り出すことが最善策だと思った。




だから気持ちが整理できたか尋ねられたら、そうじゃない。

でも少なくとも、ハセにはそれを知られたくなかった。



「遅くなったら、蒔帰ってくる」



たぶんいつもの、ちっぽけなプライド。

恭の前で泣いたことすら、わたしは秘密にしておきたかったんだと思う。



「そうなったら、できないでしょ?」



「なにが?」



「なにって、一つしかないじゃない」



恭しか知らない秘密に、しておきたかった。



< 97 / 351 >

この作品をシェア

pagetop