【完】STRAY CAT
どきりとした。
実際にその翌日、わたしは恭とファミレスで会った。
しかも家に呼んだ。
ハセですら家に上がったことなんてないのに、別れた男をたやすく家に上げた。
自分から、その腕に縋るように泣いた。
ダークフローラルな香水も、優しい声も、抱きしめるぬくもりも全部、あのときのままで。
「……だから今、すげえ、うれしい」
今度は別の男に、愛のない結婚が嫌だからと縋ってる。
恭との間に起きた出来事はすべて、内側に潜めて。
「……はやく水着選んで帰ろ、ハセ」
恭と別れたのは、婚約を理由に新たな人生を踏み出すことを決めたから。
そのときになって別れるよりも、いつか別れなきゃいけないことを告げるよりも、あの場所で別れを切り出すことが最善策だと思った。
だから気持ちが整理できたか尋ねられたら、そうじゃない。
でも少なくとも、ハセにはそれを知られたくなかった。
「遅くなったら、蒔帰ってくる」
たぶんいつもの、ちっぽけなプライド。
恭の前で泣いたことすら、わたしは秘密にしておきたかったんだと思う。
「そうなったら、できないでしょ?」
「なにが?」
「なにって、一つしかないじゃない」
恭しか知らない秘密に、しておきたかった。