【完】STRAY CAT
「ハセ……っ、や」
「"いや"?」
嫌だなんて微塵も思わないのに、無意識にあふれてしまうそれ。
問い掛けに「いやじゃない」と首を横に振るわたしを見下ろした彼は、どこか満足げに口角を上げた。
「嫌じゃねえの? 鞠」
「っ……う、ん」
「っ、」
浅く深く、強く弱く。
ハセとははじめてなのに、分かりきったように揺さぶられて、それがひどく調和して、自分でも知らないような甘ったるい媚びた声色が響く。
「なあ、鞠」
熱い。熱くて、熱くて……融けそう。
今にも馬鹿になりそうな頭でそんなことだけ考えてハセを見たら、ハセはちょっと苦しそうに眉間を寄せた。
「俺のこと、名前で呼んで」
何かに耐えてるのは、この状況のせいじゃない。
主導権を握っているのはハセのはずなのに、そのハセからのおねがいに、毒気を抜かれてしまう。
こんな状況なのに初恋みたいにまっさらな気持ちだけ残って、
口をついて出た声は、本当に無意識だった。
「紘、夢」
子どもみたいな、嬉しそうな笑顔。
それを見せたハセは、表情とは裏腹な仕草で、わたしの熱をぐっと引き上げて。──パンッ、と、目の前の視界が弾けた。