君と向日葵
研修旅行に行きましょう
ひまわり福祉専門学校は毎年五月下旬に研修旅行を実施している。介護福祉科のほか医療ビジネス科・保育科など総勢150名程度の学生が、県内有数のリゾート地であるU温泉にあるホテルで一泊し、球技大会やウオークラリーが催される。
介護福祉科の面々は同じ学科の2年生たちと同じバスで目的地へと向かっていた。
「アズちゃんどうしたの、ボーッとして」
赤い眼鏡にポニーテールの榎本美紀がポッキーをほおばりながら訪ねた。美紀は身長の低さも相まってどうかすると中学生にも見える。薫が以前、いつも梓と何を話してるのかと聞いたとき、ええ~普通の女の子がするような話ですよ、とかわされた。ファッションとかアイドルとか?梓もそういう話題に興味があるんだろうか。そりゃ十代の女の子だしな。
「え?ああ何でもないよ、景色を眺めてただけ」
梓は美紀が持っている箱からポッキーを一本抜きとってそう答えた。。
実は梓の心の中にはゴールデンウイーク中の出来事が引っ掛かっているのだった。
3歳上の兄と母方の祖母の家を訪ねた帰り、立ち寄ったカフェで薫たちと遭遇したのだが、声をかけようとする間もなく彼らは店を出て行ってしまった。
(勘違いされたかな?)
でも勘違いってなんだ?カレシと間違われたからといって何か問題でも?逆に付き合ってる男がいると思われる方がいいじゃん。
あれからずっと胸の奥にあるこのチクチクしたものは何なのだろう?薫に「連休中に兄と一緒にいるときに会いましたね」と言ってしまえばすっきりするような気もするが、そもそもどうして私がそんな弁解じみたことを言わなければならいのだろう。
「あ~もう!着くまで寝る」
梓は大きく伸びをして宣言したが、ポッキーをもう一本取るのは忘れなかった。