君と向日葵

過去 毬花-1


21歳の浅野毬花(あさのまりか)は都内にあるN大学の3回生だ。最近学校近くの洋食屋「ふらんす亭」でバイトを始めた。以前のバイト先だったカラオケ屋が閉店したためだ。個人経営のカラオケ屋は料金の安さもあって学生に大人気だったのだが、オーナーの奥方がバイトの若い兄ちゃんと駆け落ちして、すっかりやる気をなくした彼は店を閉めてしまったのだ。

「3番さん、ヒレカツランチ大盛りあがったよ」
「ハイ!」
レギュラーサイズの2倍はあろうかという量のヒレカツランチを抱え、毬花が指定のテーブルに運んでいくと、真っ黒に日焼けした長身短髪の若い男性が店に置いてあるマンガ雑誌を読んでいた。
「あれ!榊くん?」
男が顔を上げる。
「おお、浅野か。久しぶり!ここでバイト?」
高3のときH高で同じクラスだった榊薫が目の前にいた
(テニスが強くて有名だったよね。真っ黒だから今もやってるのかな)
「うん、最近変わったばかりなんだ。これからごひいきに」
「商売熱心か!」
薫が笑うと真っ白な歯が日焼けした顔によく似合っていた。
「でも榊くんって確かK大だったよね。学校は二駅離れてるけど、この辺に住んでるの?」
「ああ、僕大学でもテニスやってて、練習コートがこの近くなんだ。それで時々ね...浅野はN大だったよね」
(私の進学先、覚えてくれてたんだ。高校時代はあんまり話すこともなかったけど、意外)
毬花は少し嬉しかった。薫は旺盛な食欲を見せてランチの量を減らしている。
「ごめんね、そろそろ料理人がちゃんと働いてるか監視に行かなくちゃ」
「覆面リサーチかよ!」

会計を終えて薫が店を出るとき、毬花に声をかけようかと思ったが接客中だったのでやめておいた。
(浅野、なんだか大人っぽくなってたな。化粧とかしてるのか?)
浅野毬花は肌も白いのだが、色素が薄いのか瞳や髪の色も茶色がかっていて、日本人には珍しいタイプだった。そのせいかメイド服っぽい制服がよく似合っていた。
(あれはオーナーの趣味だな)
クラスではあまり話したことがなかったが、薫の記憶には、柔らかい笑顔で友人たちと会話する毬花の姿が残っている。

8月2日、毬花と薫が再会した日だった。
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