COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
その時、手にしたスマートフォンが振動する。
すぐに画面を確認して、電話を取った。
《日比野?
今どのあたり?》
電話を当てた耳になだれ込む、低い声。
わ。なんだか耳がこそばゆい。
「出口でて、ひだり…のイルカの絵のところ…」
電話の向こうから聞こえる相槌に、
耳がくすぐったく感じてついぎこちない話し方になる。
《あ、うん。》
突然、後ろから肩を触られる感触。
驚きのあまり、振り返った体勢のまま固まる。
そこには電話を耳に当てた有松さんがいた。
『…いた』
電話から聞こえた声なのか、目の前の有松さんの声なのか。
「なんか…少女漫画の待ち合わせみたいデスネ…」
私の至って間抜けなつぶやきが聞こえたのか
彼は目を丸くして、すぐにいつもの表情に戻した。
『アホか。
…行くぞ』
そう言った彼が一瞬笑ったように見えたのは多分気のせいではない。