COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―


先程の有松さんの言葉が脳内を反芻(はんすう)する。

“求愛行動でーーー”


……完全にやってしまった。
どうしようどうしようどうしよう。

頭の中が一気にパニックになる。


『…また顔芸してるぞ』

何も答えることができない私に、彼は眉を下げて笑った。

「あの、」

『ほら信号、もう変わるぞ』

そう促されるように前を向くと、私の左手に何かがぶつかる。
それは彼の右手の甲だとすぐに気付いた。

それは優しく、私の手を指で 手繰(たぐ)るようにして手を握った。

彼の腕を辿るように視線を上げると、目が合う。


『ちなみに、

オスの求愛行動はメスを追い回すらしい』

そう言った彼の瞳の奥が、少し熱っぽく感じた。


彼は私がイルカのようだと言ったけれど、きっとそれは彼の方だ。
シグナルが青に変わり、流れに任せるように歩き出す。


イルカの新たな一面は、私の心臓をえぐるように高鳴らせた。


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*BLACK COFFEE
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