COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
『ね、日比野さん、お願い。
いいでしょ?』
そう私に尋ねる声は、私の中をすり抜けていく。
やめて。
有松さんの前でそんなこと聞かないで。
「…そうだね、うーん…」
『え!?いいの!?
やった!』
うまく言葉を紡ぐことができずに、
曖昧に間を稼ごうとした私の言葉が承諾と取れてしまったようだ。
もうヤダ。
視線を足元に落とした。
その時、何かが私の左手に触れると強く握った。
顔を上げると、そこには有松さんの横顔があった。
『駄目だ。
連絡先も教えないし、呑みにも行かせない』
彼は淡々とそう言い放つと、私の手を握ったまま歩き出す。