COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
*BLACK COFFEE 《優香》
春の風には香りがあると思う。
この何かが始まりそうな、
終わってしまいそうな切ない香り。
そんなことを考えながら空を仰いだ。
コツ、コツ、コツ。
ハイヒールが石畳に当たってリズム良く
小気味よい音が鳴る。
いつもの朝。いつもの道。
優しくそよぐ風に乗って、香ばしくていい香りが鼻をくすぐる。
メインロードの脇、深緑色の屋根がついたワゴン車に向け歩みを進めると、挽きたてのコーヒー豆の香りが一体を包んだ。
ワゴンの前には丸いテーブルがいくつも並んでいて、出勤前のサラリーマンやOLで賑わっている。
常連とは毎朝顔を合わせているので、見たことがある顔がちらほら。
テーブル視線を向けて、いつもの顔を探す。