COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
きっと彼はこんなこと何とも思っていないんだろうけれど。
彼は視線を逸らすと、再び昭香さんを見た。
『どうでしょうね?』
いつもの優しい笑みを浮かべて、はぐらかす。
こういった場面を幾度か目撃したことがあるが、昭香さんも決まって深追いしない。
『ふーん、そっか』
目の前の席に座る昭香さんを見つめる。
ほら、やっぱり。
見えない了解が二人の間にあるような、呼吸の合ったやりとり。
それも仕方がない。
昭香さんは、私の知らない室長を沢山知っているんだ。
こんなことでヤキモキしていたって仕方がないのに。
時計を見ると、休憩の残り時間はあと10分。
「私、後片付けしてきますね」
そう言って皆の食べ終わった食器とカップを回収すると、給湯所へ向かった。
いつもならば休憩の時間が終わる直前に席を立つ。
けれど今日は少し早めに切り上げて後片付けへ向かった。
オフィスから外に出ないと息ができなくなるような、そんな時がある。
室長と付き合うようになってからは特に、こういう日が増えたように感じる。