COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―

その確信は()しくも直後に崩れ落ちた。

『…本郷さん?』

その声に彼を見上げると、彼の顔が目の前に

あるはずだった。


けれど目に映ったそれはまるで、すりガラスの向こう側にいるような
恐らく彼であろう輪郭がぼやりと見えるだけだった。

ぼろぼろとまた頬に触れたそれが
涙だと気付くと、踵を返そうと咄嗟に体を動かした。


『待って!!!』

その瞬間、進行方向を塞ぐように彼の腕が伸びてきた。

まるで抱き止めるような形で、私の肩に彼の掌が触れる。

『…おかしいと思ってたんだ』

いつもとは違う、真剣な彼の声。

彼の顔を見上げるが
ぼやけた視界の中、彼の表情は読めない。

移動した彼の手が私の手首を掴むと、扉の中へ引き入れるようにその手を引いた。
< 255 / 449 >

この作品をシェア

pagetop