COFFEE & LOVE―秘書課の恋愛事情―
彼は私の手を引いたまま歩を進め、
明かりの灯ったキッチンへ辿り着くとその手を離した。
『本郷さん…。
何があったんですか?』
「ごめん…何でもないから」
彼に無駄な心配をかけてはいけない。
そして何よりも春田くんと過ごす、この時間だけは楽しいものであって欲しい。
まっすぐ前を見たままの彼の背中を見上げるが、当の彼は押し黙ったままだ。
「春田くん…?」
彼は少しの間何かを考えるように俯くと、振り返った。
初めて見る、真剣な表情の彼。
その表情はどこか辛そうで、寂しげに見えた。
『何でもないわけない…ですよね』
その時、無機質な音がキッチンの中に響く。
『…鳴ってますよ』
「…ごめん」
そう断って鞄の中からスマートフォンを取り出すと、その画面に目を落とした。
「…っ」
再び表示された彼の名前に、手が止まる。